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バーゼル・ワールドで考えた、表面処理の行きつく先。

篠田哲生プロフィール

 

 腕時計は身につけるアイテムですから、ケースやブレスレットに傷がつくことは避けられません。

 

 しかしながらケースに刻まれた傷の一つ一つが、自分と一緒に日々を過ごしてきた証。そして一緒に成長してきた証でもあります。腕時計というのは日焼けによるダイアルの経年変化だけではなく、ケースに刻まれた傷という“エイジング”を経ることで、パーソナライズ化され、より一層の愛着が深まるのです。

 

 …などと、かっこいいことは書けますけど、実際に自分の時計に傷が付くのは非常に不愉快です。あの日あの時あの場所で…というような思い出深い傷だったなら、なんとか納得できるかもしれません。

 

 しかしケースに刻まれる傷の大半が、いつ発生したのかも不明の突発的なモノ。まるで駐車中のクルマを当て逃げされた時のような、やり場のない怒りがこみ上げます。

 

 しかもこの傷。なぜか目立つ所に入りませんか。ヘアライン仕上げが美しいベゼルや曲面で魅せるケースサイドなど、時計の美観に大きく関わる部分ほどキズに悩まされ、そして時計を見るたびテンションを下げるのです。

 

 こんな悩みを抱えている人がよほど多かったのでしょうか? それともメンテナンス時のケースの磨き直しが面倒だったのでしょうか?(おそらく両方正解) 昨今のトレンドとして「スクラッチプルーフ(耐傷)」な時計が増えています。

 

 その代表的なスタイルが、金属素材の表面にダイヤモンド並みに硬い皮膜を作るDLC(Diamond Like Carbon)という手法。さらにこの考え方は素材選びにも波及しており、傷に強くその輝きがいつまでも褪せないセラミック素材はもはやお馴染み。今年のバーゼル・ワールドでは、オメガが金無垢への金属配合を工夫することで硬度を高める「オレンジゴールド」という新しい金無垢ケースを発表しています。

 

 もはや“より硬く、より傷つきにくく”という志向はもう止められない流れなのです。

 

 しかしながら全く傷つかない時計は、“エイジング”の楽しみを奪ってしまうのも事実…。

 

 なんて思っていたら、今度は耐傷性能をキープしつつ、既にエイジング処理されている時計も発表されました。

 

 コンコルド「C1 ヴィンテージ」は、ケース表面にブルーのPVD処理を施し、その上から特殊処理を加えることで、新品ながら既にエイジングされています。つまり「PVD処理によって傷付きにくいけど、使い込んだ味わいがある」のです。

 

 しかも付属するストラップもヴィンテージ加工してしまうというこだわりよう。完全にファッション的目線から考えられた時計ですが、ユーズド加工のデニムが市民権を得ている状況を鑑みれば、ケースへのヴィンテージ加工というのは、それほど突飛な発想ではないのかもしれません。

 

 ケースの表面処理は、美観を高めるめっき/IPの着色技術に始まり、耐傷性を高めるPVDへとたどり着きました。そしてこれからのトレンドは、“美観×耐傷性”となるのでしょうか? 時計はまだまだ進化していきます。

 

 

バーゼル・ワールドで考えた、表面処理の行きつく先。  

コンコルド「C1ヴィンテージ」は、世界限定25本のみのレアピース。今秋発売予定で、価格は1,785,000円(予価)。

  バーゼル・ワールドで考えた、表面処理の行きつく先。  

PVD処理したSSケースの表面に、メカノ・ケミカル加工を施すことで、既に使い込んだ風合いを演出している。

 

 

バーゼル・ワールドで考えた、表面処理の行きつく先。  

セラミックケースといえばラドーが有名。自動巻きデジタルウォッチ「セラミカ デジタル オートマティック」は344,000円(予価)で、今秋発売予定。

  バーゼル・ワールドで考えた、表面処理の行きつく先。  

ブルガリ「ソティリオ・ブルガリ BVL169 DLC」は、ケースパーツの一部にDLC処理。これも“美観×耐傷性”という表面処理スタイルの一例。今秋発売予定で価格は703,500円(予価)。