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工業デザイナーのセンスが、クォーツウォッチの新たな価値を生む

篠田哲生プロフィール

 

 優れたプロダクト製品とグッドデザインは、常に密接な関係にあります。

 

  しかしデザイナーはというと、家具、家電、照明、携帯電話など担当が住み分けされており、なかなかジャンルをクロスオーバーして活躍する人は少ない。特に時計の場合はプロダクトが小さく制約も多いため、デザインが難しく時計専業のデザイナーばかりでした。

 

 それでも、マーク・ニューソン×アイクポッドの成功によって風向きが変わりつつあります。例えばタグ・ホイヤー「モナコV4」のプロトタイプデザインは、工業デザイナーのロス・ラブグローブが担当。さらにGUCCIではクリエイティブディレクターのフリーダ・ジャンニーニが、時計のデザインも手掛けています。

 

 このような動きの背景には、時計=アクセサリーという意識が浸透したことで、デザインに自由度が増したことが挙げられるでしょう。クラシック一辺倒ではなくエッジの利いたモダンデザインへの許容量が増した結果、時計界自体が徐々に“デザインの実験場”になりつつあるのです。

 

 この工業デザイナー×時計という組み合わせに、遂に真打ちが登場しました。

 

 あのジャスパー・モリソンがラドー「r5.5」というモデルを発表。彼らしいミニマルで普遍的なフォルムが特徴で、ラウンドとスクエアの中間にあるケースフォルムは、若い時に愛用していたデジタルウォッチをイメージしているそうで、“r5.5”という名称は、彼が好む半径5.5mmのカーブを意味しています。

 

 さらにクロノグラフ表示にもこだわりがあり、本来なら2時位置にある12時間積算計が排除されました。「12時間も計測することは、ほとんどありませんからね。それよりも使用頻度の高いカレンダーの視認性を高めたかったのです」。さらに素材使いにも彼らしさが加わります。「今までのラドーのセラミック素材は、ポリッシュ仕上げで金属のような質感を演出していましたが、今回はマットフィニッシュを施すことで柔らかい表現を追求しました」。

 

 これまでのデザイナーズウォッチは、あくまでも目を惹くことが主眼でした。

 

 しかしジャスパー・モリソンの自由な考え方によって、「r5.5」は時計自体の価値や魅力を引き出すことに成功しています。

 

 クォーツウォッチらしいモダンさを際立たせる“デザイナーズ・モダン・クォーツ”というジャンルが、時計業界における新勢力になる可能性も出てきた…。そう思わせる快作が誕生しました。

 

 

工業デザイナーのセンスが、クォーツウォッチの新たな価値を生む   パウダーを型にいれ、圧力をかけて焼き固めるセラミックケースは、そのままでも美しいフォルムとなるが、ジャスパー・モリソンのこだわりを実現させるため、特にラグの部分を丁寧に研磨して滑らかなカーブを生み出している。マットブラック×ゴールドインデックスの組み合わせが、彼の一番のお気に入りだ。 この「r5.5クロノグラフ」は2時位置の積算計を外しており、視認性と新しいデザインスタイルの両面を具現化している。
クォーツ、マットセラミックスケース、ケースサイズ46.4×37mm、3気圧防水。36万7500円

 

 

工業デザイナーのセンスが、クォーツウォッチの新たな価値を生む   Jasper Morrison/ジャスパー・モリソン
1959年ロンドン生まれ。王立芸術学院で修士号を取得し、1986年にロンドンにデザイン事務所を設立。2000年にデザイナー・オブ・ザ・イヤーを獲得。どんな空間にも馴染む“スーパーノーマル”というデザイン手法で知られ、代表作に照明「グローボール」、イス「ロー パッド」などがある。