スプリットでは、素晴らしく素敵なレストランにも2軒出逢いました。1軒が「ENOTEKA TERRA(エノテカ・テッラ)」、もう1軒が「RESTAURANT ADLIATIC(レストラン・アドリアティック)」です。
古都スプリットの郊外の夜の闇の中に、謎めいた邸宅がうずくまる。鉄の門を開け、石段を数段降りる。そして重厚な印象の木の扉を開けば、さらに夜の底のほうへと向かって下ってゆく階段が現れ、その先には光と影が交錯する幻想的な空間が続いていた……。
それが「エノテカ・テッラ」です。微かな光が穴蔵めいた煉瓦と漆喰の壁に零れ、仄暗い中世の僧院か聖堂にでも迷い込んでしまったような錯視を訪れた人に与えます。“エノテカ”の名の通り、店内のかなりのスペースをワインセラーが占めているのですが、その空間を支えるアーチの連なりが密やかな光に照らされて、まるで木霊のように幾重にも天井に影を落としながら、訪問者をさらに奥へと誘ってみせる感覚。
この空間で供されるのが典型的なダルメシアン料理。そしてその伝統の味わいとワインとの新しいマリアージュを提案したことで、このレストランは地元住民から高い評価と人気を得たといわれます。ダルメシアン料理とクロアチアワインが織り成す陶酔は、ちょうど光と影が紡ぎ出すこの空間のように、人々を魅了したということなのでしょう。
と、ちょっとカッコよくまとめてみましたが、私たちがこの店に着いて撮影を始めようとしていると、店内奥からこんな声が聴こえてくるではありませんか?
「ねえねえ、何食べる?(バリバリの日本語)」
えー? 驚いてその声のほうを見ると、かなり若い日本人カップルが、ふたりでメニューをのぞき込んでいるではありませんか。いや、びっくりしたなあ。あんたたち、クロアチアの、それもザグレブでもドゥブロブニクでもない町の、それも郊外の隠れ家レストランに、どうやって来たんだ?
そういうカップルも、明らかに日本人の私たち一団が、レストランの店内や料理の撮影を始めるのを、かなり奇異な目で見ていました。ま、お互い様ということですね。日本人て、世界のどこにでもいるんだなあ(もちろん、ドゥブロブニクではたくさんの日本人観光客を目撃しました)。