なんとこの迷宮の中に、普通の旅行客が泊まれるホテルがあるのです。それも空間デザインは超スタイリッシュ。それが｢HOTEL VESTIBUL PALACE(ホテル ヴェスティブル･パレス)｣です。2005年９月にできた隠れ家ホテルで、古い石造りの建物の躯体は残しながら、内部を完全にリニューアル。７つの客室に、ひとつとして同じ表情のものはなく、ともかく巧緻を極めたモダンデザインと蒼古の記憶をとどめた外観とのコントラストが鮮烈で、クロアチアの権威あるデザインアワードが贈られたといいます。

 

　 実はこのホテル、見つけたのは偶然と言ってもいい。私は、私が編集している月刊誌｢東京カレンダー｣の取材でこの地を訪れたわけですが、その時に乗ったタクシーの運転手が｢東京カレンダー｣を見て、｢この雑誌に載せるんだったら、ぴったりのホテルを俺は知っている｣と言い出すわけです。えー？ あの古い宮殿の中にホテルが？ それもカッコイイ？

　 「絶対に大丈夫だ、俺に任せておけ」。そう言われても、正直、半信半疑でその運転手についていくと（もちろん車は宮殿内には入れないので城外の駐車場に停め、歩いて案内されるわけです）、このホテルが現れたのです。

 

　 「どうだ、俺に間違いはないだろう！」と言ったときの、あの運転手さんの誇らしげな顔。

 

　 そしてこのホテルに関しては、もうひとつ思い出があります。クロアチアから帰って半年も経ったころでしょうか、なんとなくスプリットのことをネット検索していたら、「東京カレンダーで見つけたスプリットのホテルに行って来た！」という書き込みを見つけたのです。その方は何気なく手に取った｢東京カレンダー｣で｢ヴェスティブル･パレス｣を見て、もう、どうしても行きたくなって、クロアチアまで本当に行ってしまったらしいのです。ホテルにはすごく満足されたみたいで、その時、私も｢俺に間違いはないだろう｣と、あの運転手さんみたいな気持ちになってしまいました。まあ、実は私も棚ボタで見つけただけで、全然私の手柄じゃないんですけどね。

 

 

 

 

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