日本全国、酷暑に苦しむ夏。ひと時の涼を求めて、日本海から黒部川を深い山あいを進む黒部峡谷鉄道を訪れました。北アルプスは冬場に長野県の方からはアプローチしたことがあるのですが、日本海側からは初めて。切り立った深い峡谷を分け入るように進むこのトロッコ電車には以前から興味があったのですが、ほど近い魚津での仕事が入ったのを幸いに念願の景観を存分に楽しむことが出来ました。
東京から越後湯沢で乗り換えて魚津までは約3時間。そこからさらに富山地方鉄道に乗って30分。始発駅の宇奈月温泉に到着します。温泉地として有名な宇奈月温泉。富山の人々の生活を支える電源開発の礎となった黒部川電気記念館など見所もいっぱいです。オープンエアの車両に乗り込み、駅を出発するとすぐに眼下にエメラルドグリーンの水をたたえた宇奈月ダムが。もともと工事現場の資材の運搬用に作られたこのトロッコ電車なのでそんなに快適なわけではありませんが、そびえ立つ山あいを走り抜け、万年雪を抱いた美しいアルプス、いくつもの興味深いダム湖や電源施設などを見ながら、深く険しい谷を駆け抜けるスリリングな体験は圧巻でした。
途中、まるでヨーロッパの古城のような電源施設や、気象に影響されない地中の発電施設、轟音を轟かせて水煙を上げるダムなど、日本の水力発電の技術と開発は素晴らしいなあと単純に思ってしまいました。そして終点の欅平駅を降りるとさらに絶景が待っていました。黒部川本流に架かる朱塗りの奥鐘橋。眼下には清流が流れ、人喰い岩の奇岩の景観も楽しめるます。さらに15分ほど上流を目指すと、そこには極上の露天風呂が用意されていました。大自然と一体化できるような名剣温泉は泉質も程よい硫黄泉。清流を眺めながらゆったりとくつろぐには最高の場所となっています。
そして十分に暖まった後に名剣温泉に併設された食堂で供される蕎麦定食を注文すると、季節がちょうど山菜のシーズンということで、天ぷらが本当に美味しく、蕎麦ももちろん極上で、水の良いところは本当に豊かだなあと感じさせられる一日でした。日本海はもちろん魚介類が素晴らしいのですが、山の幸もまたこれだけのものがあるのか、と思いました。山の景色が好きな方、温泉が好きな方、鉄道が好きな方、皆に日本にはこんなに素晴らしい場所があると伝えたい、最高の小旅行となりました。
Photo&Text Takamasa Wada