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記憶の中の風景 Vol.04 アドリア海の貴石は輝く、世界文化遺産の古都が眠るクロアチアへ 1


  真っ青な海を背景に、まるで蜃気楼のように現れる白壁と赤瓦の家並みの石造りの街。童話の中にしかあり得ないと思っていた風景が、ここに来ればあなたの眼前に広がる。

 

  それがクロアチアだ。長い時の流れの中で、それでも奇跡のように残った中世のままの街並みの古都が点在し、それらは世界文化遺産にも登録されてヨーロッパ中のツーリストの郷愁と憧憬をかき立てる。アドリア海の真珠、あるいは宝石。白昼夢を見たければ、この国を訪れればいい。それだけでいい。

 

  ここにいる限り、夢は覚めることも、褪せることもない。

 

アドリア海の貴石は輝く、世界文化遺産の古都が眠るクロアチアへ 1

  ――クロアチア。この国に関して私たちが知っていることは、あまりにも限られています。だいたい皆さんは、「クロアチア」と聞いて、何を思い浮かべますか? サッカー? ミルコ・クロコップ? あるいは旧ユーゴ内戦の暗いイメージでしょうか。

 

  しかし実際に訪れてみれば、内戦の記憶は日々遠いものへと薄れていっており、この国は今、美しい平穏を取り戻しています。アドリア海の対岸に位置するイタリアをはじめとするヨーロッパ各国からは多くの旅人が訪れます。彼らが目指すのはこの国に残る、夢のように美しい街並み。

 

  白壁と赤瓦の家並みが陽光に映える、中世の海上交易で栄えた要塞都市ドゥブロブニクの旧市街。ローマ皇帝ディオクレティアヌスがその余生を過ごした宮殿を中心に発展したスプリットの歴史的建造物。そして紀元前4世紀に古代ギリシア人によって造られた、気の遠くなるような長い時間が封印された街、トロギールの歴史地区。そうした世界文化遺産にも登録された古都がアドリア海沿いに延びる細長い国土に潜み、訪れた人々を魅了します。クロアチアへの旅とは、時間旅行の趣も帯びた稀有な体験なのです。

 

  この国を訪れるには首都のザグレブから入るのが一般的かもしれませんが、そうした時間旅行を愉しみたいのならば、ドゥブロブニク空港かスプリット空港からクロアチアの旅を始めるのもひとつの方法でしょう。日本からクロアチアへの直行便はありませんが、これらの空港はヨーロッパ主要都市との間に航路が設定されているので、一度のトランジットで辿り着けます。

 

  そうして例えば、トロギールの名もない路地を歩いてみれば、この国の素晴らしさの片鱗が見えてくると思います。3世紀に敷かれたという石畳。1,700年以上も人々に踏まれ続けてつるつるになった石は、薄暗い路地の底にあっても不思議な光を帯びています。そう、時は流れてやまず、人もまた夢見てやまない……。だから人はここに集まってくるのです。

 

  クロアチア――私たちが知らないこの国に、知るべきことは果てしなく多いのです。

 

 

 

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