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消えゆく時計にこそ愛情を。~ディスコンモデルのススメ~

篠田哲生プロフィール


  分離開催となったSIHH&WPHHとバーゼルワールドが終わり、2009年の新作モデルが揃ったこの季節。しかし新しい出会いを喜ぶ一方で、春は悲しい別れの季節でもあります。


  新モデルが鳴り物入りで登場したとなれば、当然ながら旧モデルはひっそりとディスコン(discontinued=生産中止)となる運命であり、もはや話題にも上がりません。


  あれほど買うかどうかで悩んでいたユーザーも、今ではこの新モデルのスペックに胸をふくらませている始末…。このあたり、新入社員が入社したことによって、すっかり影が薄くなった“元・職場の華”にも通じる悲哀を感じさせずにはいられません。


  しかしディスコンとなる旧モデルには、厳しい時代を生き抜いてきた魅力があります。しかも、身内から最強のライバルが現れたことで、ディスコンとなるモデルをじっくり比較できる。つまりメリットもデメリットも冷静に判断するチャンスなのです。


  例えばIWCは今年、ダイバーズモデルの「アクアタイマー」をリニューアル。全てのモデルをアウターリューズ式に変更しました。これはグローブを装着した状態でも操作しやすくするための、非常に意味ある進化です。


  しかし、その一方で1967年に登場した元祖アクアタイマーが培ってきた“インナーリューズ”という伝統的なスタイルは失われてしまった。旧モデルはベゼルが強調されないため、本格ダイバーズでありながら、フォルムは極めて端正です。これは、まさに“機能美のIWC”を地でいくデザイン手法でしょう。ここは個人的なツボであり、それゆえディスコンとなる旧アクアタイマーに心が惹かれてしまうのです。


 

  しかも生産中止が故に、購入チャンスは在庫のみという希少性も、焦りに拍車をかけます。どこでも買えるモデルではないという、この“ひと苦労感”も、ディスコンモデルの魅力。ついでに言えば、いつも苦労している奥様への言い訳だって、「消えゆく時計遺産に愛情を注ぎ、永遠の命を与えたいんだ…」とでもスカしておけば万事解決のはずです。


IWC AQUATIMER AUTOMATIC 2000
アクアタイマー・オートマティック 2000


2004年に登場した「アクアタイマー」シリーズの中で、最も防水性能に長けたモデル。42㎜径×14.8㎜厚のチタンケースで、2000mまでの潜水が可能。二つのリューズがあり、上は時刻調整用でねじ込み式。下はロック機構付きの自動機密構造を持つインナーベゼル操作用リューズ。ねじ込み式にしなかったのは、操作性を考慮しているため。自動巻き、チタンケース、ケース径42㎜。64万500円


IWC 03-3288-6359