TOP > Travel > 旅行 コンシェルジュ 星野 智之 > アドリア海の貴石は輝く、世界文化遺産の古都が眠るクロアチアへ 1

  そんなクロアチアの中で、ここではスプリットとドゥブロブニクというふたつの街に絞って、印象的なレストランやホテルをご紹介したいと思います。クロアチアの首都は先ほども言ったようにザグレブですが、スプリットは第2の、ドゥブロブニクは第3の規模を誇る都市。そうそう、ザグレブと言えば、サッカーファンには馴染みがあるかもしれませんね。かつて“キング・カズ”が在籍したクラブ「クロアチア・ザグレブ」が本拠を置く都市。ただですね、私がクロアチアを訪れたのは2年ほど前のことなのですが、ザグレブの人に「ミウラというサッカー選手が以前、クロアチア・ザグレブにいたでしょ?」と聞いても、誰一人、覚えている人はいなかった。……残念。

 

  さて、ドゥブロブニク。かつてノーベル賞戯曲家バーナード・ショーが、「ドゥブロブニクを見ずして天国を語るな」とまで賞したという、それは美しい街です。旧ユーゴ内戦でセルビアの砲火にさらされ、一時は壊滅の危機にさらされましたが、今日では街並みは完全に修復されて、その美しい街並みがよみがえりました。

 

  あ、これも閑話休題ですが、去年の暮れ、私は京都は祇園の、一軒の料理屋さんに居たんです。カウンター8席ほどの小さな割烹だったんですが、そこに一組の、明らかに「同伴だな」と思われるカップルが食事をしていました。そこで若い女の子が年配の男性にひと言。「ねえ、そういえば私も行きたいなー、ドゥブロブニク。すごく良かったって言ってたじゃない」……私はそれを聞いた瞬間、鼻から日本酒を噴き出しそうになりました。日本の京都の、それもこんなに小さな店のカウンターに、ドゥブロブニク経験者がふたりもいるとは……。年配の男性は鷹揚にうなずきながら、「そうだな。じゃあ今度行くか」なんて言っているではありませんか。え? また行くの?

 

  でも、本当にドゥブロブニクは素敵な場所なのです。何度でも行きたくなるぐらいに。

 

  そんなドゥブロブニクで見たホテルの中で、特に私が印象に残ったのは、「DOBROVNIC PALACE(ドゥブロブニク・パレス)」と「THE PUCIC PALACE(プチ・パレス)」の2軒ですね。このふたつは、実に対照的なホテルでした。

 

まず「DOBROVNIC PALACE」。エントランスを抜けると、そこには広大なガラス壁一面にアドリア海のパノラマが広がります。青い色に染まった光がそこから流れ込み、ロビーのソファに憩う人々を、まるで幻想的な影絵のように見せています。

 

アドリア海の貴石は輝く、世界文化遺産の古都が眠るクロアチアへ 1   アドリア海の貴石は輝く、世界文化遺産の古都が眠るクロアチアへ 1

  ここはクロアチアのモダンデザインの極点を示すホテルです。玲瓏な大理石が敷き詰められ、アールを描くスロープが空間を横断するロビーは、モダンアートの美術館を想起させます。300以上のゲストルームを持つ規模のホテルですが、その隅々にまでモダンデザインの美意識が張り巡らされているような印象が漂います。

 

  アジアの癒しの空気感を取り入れた、甘美なエキゾティシズムがたゆたうスパや、海に向けて開かれたガラス窓からの光で、デッキチェアに微睡む人々の影を密やかな静物へと還元してみせるプールなど、現代のホテルでは必須のファシリティも、このホテルではまた別次元の美しさに彩られています。ホテル各所にちりばめられるように配置されたバーやレストラン群も、空間と料理でゲストを静かな高揚に導いてみせます。

 

中世の街並みが残るドゥブロブニクにあって、このホテルが創り出すコントラスト。それは旅人の胸に、長く残響し続けるでしょう。