TOP > Travel > 旅行 コンシェルジュ 星野 智之 > 知られざる極上リゾート、マジョルカ島の夢のホテル
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  続いて’02年にはミシュランの星も得た、マジョルカで最もおいしいという声望も高いレストランの「READ’S(リーズ)」。私は恥ずかしながら純粋に“レストラン”だと思ってうかがったんですが、そうしたらオーナーのマルクス・リードさんが「客室も見ていく?」とおっしゃるではありませんか。そうして案内されたゲストルームが、また素敵なんです。聞けば、’88年にリードさんがこの石造りの館を買い取ったとき、それは時の流れの中で朽ちかけた廃墟のようだったそうです。それを7年という長い歳月をかけて丁寧に改装し、ついに瀟洒なホテルとしてオープンさせたそう。


  「本当は現代の建築法を取り入れれば、もっと早くに改修もし終わっていたかもしれないけど」とリードさんは言います。「でもそれは、本当ではないように思えたんです」と。マジョルカの古い建築の佇まいをよみがえらせるため、あえて伝統的な石の積み方にこだわりもして、それで長い時間がかかった面もあるのだそうです。でもそのおかげで、このホテルに予約が取れた幸運な旅人は、美しい田園生活の残影の中に沈潜することができるのです。「まだ世界には、こんなホテルがあるんだなあ」と思わせてくれる、夢が息づくホテルです。


  ほかにもマジョルカには、個性的なホテルがまだまだあります。例えば、島の中心都市パルマから車に乗ってヴァイデモッサを過ぎた先にあるデイアという街のホテル&レストラン「CA’S XORC(カス ショルク)」。ここは150年前の館と250年前の館のふたつがつなぎ合わされた建築と、山の斜面から海までをみはるかすプールが魅力的。私が訪れたちょうど1週間前にはボノの友達の結婚式がこのホテルであったらしく、「ボノも来てギター弾きながら歌ってたよ」とのこと。


  さらにはパルマの市街地の真ん中に潜んだ隠れ家ホテル「PALACIO CA SA GALESA(パラシオ カ サ ガレッサ)」。仄暗い急角度の階段を上り、突き当りのドアを開くと、カテドラルが驚くほど近くに佇み、パルマ旧市街の家々のオレンジ色の屋根が海まで連なっているのが見渡せます。そう、ここは“マジョルカの屋根の上”。地下には穴倉みたいなインドアプール。これがまた、ぞくぞくするほど魅惑的です。


  そんなふうに、「え? こんな山の中の小さな村に?」とか、逆に「え? こんな繁華街の真ん中に?」とかといったように、思いがけないところに秀逸なホテルが現れるのも、マジョルカの不思議な魅力を形作っているのでしょう。大久保嘉人がドイツのブンデスリーガに移籍したいま、マジョルカを訪れる日本人の数は減っているかもしれませんが、それでも行って損することは決してないと思います。そして地中海のこんな小さな島に、夜空に瞬く星のように、無数の素敵なホテルが息づいている――そこにヨーロッパ文化の奥深さの一端を見る思いもするのです。そう、バカンスを美しく過ごすということ。それも間違いなく、“文化”のひとつの現れでしょうから。

 

 

 

 

 

 

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