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記憶の中の風景 Vol.01『羊をめぐる冒険』の舞台?、仁宇布(にうぷ)へ


  唐突ですが、村上春樹の『羊をめぐる冒険』をお読みになったことがありますか?


  僕が高校2年の夏、書店で聞き慣れない名前の作家の小説が並びました。目立つ場所に置かれたワゴンに平積みされていた記憶がありますから、出版した講談社も力が入っていたんでしょうね。まったくの新人作家の処女作だったのに。


  それが、村上春樹の『風の歌を聴け』でした。何気なく購入した僕は、読み始めて強烈なショックを受けました。それは、それまでに読んだどんな小説とも、まったく違っていたからです。僕は本当に夢中になり、何度も何度も読み返しました。“これは僕のための小説だ”とまで思いました。それが僕の最初の村上春樹体験。


  『風の歌を聴け』は、主人公の“僕”と親友の“鼠”との物語ですが、その基本的性格は第2作の『1973年のピンボール』、そして第3作の『羊をめぐる冒険』へと、そのまま引き継がれていきます。この3作を“僕と鼠三部作”と呼ぶ人もいるようですね。


  その『羊をめぐる冒険』には物語の舞台のひとつとして、“十二滝町”という架空の町が登場するのですが、その“十二滝町”のモデルではないかといわれている場所が、北海道の道北にあるんです。それが旭川から北へ車で2時間余り。美深町の仁宇布(にうぷ)という地区。


  小説の中では消息が途絶えた親友の“鼠”を追って、“僕”は“十二滝町”に辿り着くことになるわけですが、旭川から塩狩峠を越えて北上し、川とぶつかってから東進するという位置の説明や、「大規模稲作北限地」であるとか「全国三位の赤字線」の終点であるとかいった記述が、この仁宇布に重なるのです。もっとも、仁宇布が終着駅だったかつてのJR美幸線は、“日本一の赤字線”と呼ばれていたんですけどね。


  村上春樹の小説を何より愛する僕としては、そんな場所があると聞いて、行かないわけにはいかないじゃないですか。2004年の秋、『羊をめぐる冒険』を初めて読んでから22年後、僕は仁宇布を訪れたのです。


  仁宇布には一軒だけ、宿があります。それが「ファームイン トント」。一度泊まって、僕はこの宿も大好きになり、その後2度ほど訪れています。まず、やっぱりロケーションがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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