TOP > Travel > 旅行 コンシェルジュ 星野 智之 > 知られざる極上リゾート、マジョルカ島の夢のホテル

  そんな島を回ってみましょうか。ここを訪れるならまずお薦めしたいのが、海岸沿いにあるホテル「HOSPES MARICEL(ホスペス マリセール)」。純色の青に輝く海に向かって開かれたプール、白いレースのカーテン1枚で波打ち際と隔てられた洞窟のようなスパのトリートメントルーム、あるいは夕闇ににじむ仄かな灯りの中で潮騒がこだまするレストラン……。地中海の波に洗われる海辺というロケーションの魅力をゲストが享受できるよう、巧緻な計算が施された空間が、それこそ美しい罠のように館内の随所に配されています。建物自体は1950年代に建てられた館だそうですが、館内はコンテンポラリーなセンスでそっくりリニューアルされていいて、いわばノスタルジックな空気感とシンプルモダンなデザインが、ひとつの空間の中に二重写しになる感覚。私が訪れた前の夏には、ビル・クリントンがこのホテルで休暇を過ごしていたそうです。空と海とが出会う接線に息づく、幻想的なほどに美しいホテルでした。


 

  こうして見るとマジョルカは海辺のリゾートの印象が強いのですが、この島の顔はそれだけではありません。海岸線を離れると道は勾配を増して山の中へ――。マジョルカではそんな山峡にすばらしい風景と瀟洒なホテルが数多く潜んでいるのですから。なかでも山道を車で走っていくと、まるで蜃気楼のように忽然と現れるヴァイデモッサの村は、忘れがたい印象を訪れた人に残すと思います。こここそが、ショパンとジョルジュ・サンドが一冬を過ごした土地。周囲を高い山に囲まれていて、ほんのわずかに残された傾斜の緩やかな場所に、石積みの家々が折り重なるようにして建ち並んでいます。


  村の中央部には、中世の敬虔な信仰の空気をそのまま湛えたカルトゥハ修道院が、その威容を見せています。村の名と同じ「VALLDEMOSSA(ヴァイデモッサ)」という名のホテルに泊まれば、客室のすぐ眼前にこの静謐のカルトゥハ修道院が迫ります。もう、「素晴らしい……」というつぶやき以外は出てこないですね。わずか12室だけのホテルとは思えないような広い敷地は起伏に富み、建物の外周に設けられた石段は上ってはまた下りて、迷路を進むような感覚さえもたらします。その分岐する迷路の先には、あるいはインドアプール、あるいはスパのトリートメントルームと、さまざまに魅力的な施設が隠されているのです。


  午後8時。周囲の山々が残照に染まり、修道院の鐘が山間に淋しく澄んだ音を響かせます。ヴァイデモッサの村を、こうして静かに、また一日が通り過ぎていくのです。