最後に、そんな八重山の中で、私が大好きな宿を2軒ご紹介します。一軒は石垣島にある「ゆがふ山原」。
透き通るような白い壁と静かに燃える紅い屋根が、背景の青い海との間で鮮烈な対比を描く美しい宿。「芭蕉」「月桃」「亜檀」と、それぞれ琉球を象徴する樹の名前がつけられたヴィラが、海に向かって伸びる白砂のアプローチの両側に並びます。完全に独立したタイプのこの3棟のヴィラには、それぞれプライベートプールまでが備えられているという贅沢さ。オーナーの大久保公彦さんに話を聴くと、
「例えば珈琲が飲める場所や本が読める場所。ホテルではスイートルームでない限り、そういったことができる“もうひとつの居場所”みたいなものが持てないでしょう。だから自分が創る宿では、客室は絶対に離れ家タイプにしたかった」
と、そんな風に教えてくれました。
そしてもう一軒は、西表島にある「ニライナリゾート」西表島の海を見渡す丘陵の上、緑に包まれるようにして佇む宿です。ここは訪れた人と自然とが交感できる、そんな感覚が魅力的。ゲストルームはわずか3室しかないのにもかかわらず、「水のデッキ」「火のデッキ」「風のデッキ」、そして「土のデッキ」と、さまざまな表情のオープンテラスが展開されています。そしてそんな人と自然との交感は、人と人との交流も生み出します。滞在者はルームよりも、この樹林に張り出すように造られた広いデッキに出てくるようになり、そこで見知らぬ旅人同士が暖かい会話をごく自然体で交わすようになるのですから。海からの風の中、流れていくそんな時間の、なんと豊かなことでしょう。
――と、ここまで私が印象に残った旅先のことを、1年間、12回にわたって書いてきました。お読みくださった方々には、本当にお礼を申し上げます。
私は大学を卒業するまで、旅行というものをしたことがありませんでした。
生まれて初めて飛行機に乗ったのは、社会人1年生のとき、日帰りで札幌に出張したときです。以前は、「旅行に行っても何も残らない。それだったら服を買ったほうがいい」と、真剣にそう考えていました。それがふとした偶然で雑誌の旅行担当記者になり、そうしていろんな場所に旅することになった。
そうしていま思うのは、旅は素晴らしいということです。だって、一生着られる服というのはまずないでしょうけれど、良い旅の記憶は一生残るのです。旅先には私とは違う人がいて、違う人生を生きています。
ただそれを実感できただけでも、私は旅に出るようになってよかったと思うし、少しは大人になったのではないかとも思うのです。
皆さんも、良い旅を。またどこかでお会いできたら、うれしいです。
■ゆがふ山原 |
■ニライナリゾート |