TOP > Travel > 旅行 コンシェルジュ 星野 智之 > 時が止まった北の大地、北海道・十勝三股
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 もっともいまは、その士幌線もすでにありません。国道の開通とともに、物資の輸送の主役が鉄道から車へと移行してしまったせいです。そして十勝三股の集落も消滅しました。私の眼に“妙に開けた場所”として映ったのは、この集落の跡、いわば抜け殻だったのです。ひとつだけとり残されている木造の建物は、かつての機関車庫らしい。ほかに残っているのは、盛り土だけ。周辺はただ草原になっています。だから現在では旧駅の敷地の隣に佇む喫茶店で、壁に張られた失われた駅の俯瞰図を見ながら、ただ眼前の空虚な土地にそれを当てはめてみることしかできないのです。

 

 しかしその何の甲斐もない作業は、どこか甘美な切なさを呼び覚ましもします。失われた集落、消えた駅。そこにいた人々はどこに行ったのでしょう? 答えのない問いを胸の中で転がしてみるのも、旅の寂しい楽しさなのかもしれません。

 

 この、幻の終着駅である十勝三股に至る国道273号線沿いには、そんな寂しいロマンティシズムを求める人には絶対にお薦めのスポットがいくつもあります。

 

 壮大な廃墟として、独特の存在感を放つ第5音更川橋梁(これは国道から直接眺めることができます)。その周囲に整備された、線路跡を利用した遊歩道。あるいはかつての士幌線の線路が残る旧幌加駅のプラットフォーム……。

 

 

時が止まった北の大地、北海道・十勝三股   時が止まった北の大地、北海道・十勝三股

 

 

 そしてなんといっても異様な魅力を放つのが、タウシュベツ橋梁でしょう。長い間、風葬に付されていた動物の骨のように、そのコンクリートのアーチ橋は青空の下で白く見えます。橋桁を北の冷たい水が洗う音が、途切れることなく響いて……。帯広から国道273号線を北上したとすると、丸山橋を過ぎた直後に右に折れます。林道を6㎞ほど走ったところで車を降り、林間の小道を200mも歩けば、糠平湖の畔に出るはず。“幻の橋”と呼ばれるタウシュベツ橋梁はそこにあります。

 

 ダム湖の水嵩が増える6月ごろから湖面に沈みはじめ、10月ごろには湖底に水没。そして水嵩が減る1月ぐらいから、凍結した湖面に再びその姿を現します。“幻”と称されるのは、そのためです。

 

 橋の上は当然、通行禁止。アーチの連なりはもう、誰もどこにも連れて行きはしません。いまはただ風の中、橋は静かに時が過ぎるにまかせているのです。

 

 

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■三股山荘(十勝三股の喫茶店) 
北海道河東郡上士幌町字三股 
Tel:01564-4-2165
■上士幌町鉄道資料館(タウシュベツ橋梁に行くなら、ここで行き方の確認を) 
北海道河東郡上士幌町字糠平 
Tel:01564-4-2041