「これからはこういう場所こそ求められる時代が来るだろうって思ったよ。いいものを作れば、必ず人は来る。そう信じていた」。


  結果としてこのカフェは、英国のBBCでも紹介され、海外からの旅人もこのカフェを目指して、海を渡る。インターネットの進展がそれに拍車をかけ、一度訪れた海外からの旅行者が、このカフェの情報をアップすることで、ファンは世界中に広がりました。私はいままで何度か訪れていますが、そのたびに海外からのお客さんを見ました。一度はフランスのファッション雑誌が撮影をしていましたし、一度はEUの要人が珈琲を飲んでいました。


  実際、このカフェの二階の開放感は、もう半端じゃないです。森に向かって大きく開け放たれた琉球古民家。珈琲を飲んでいると、ただ鳥の声と風の音だけが聴こえてきます。もう、本当に素晴らしい。それ以外の言葉が思いつきません。 「何もない場所が、地球全体に広がる場所になったね」と宮城さんは笑いました。森の中の奇跡のカフェです。


  そしてもう一軒。“やんばる”のカフェの中でも最高峰の人気を誇るのが、「花人逢」です。このカフェでは、料金を支払った後、そのまま立ち去るお客さんはほとんどいません。皆無とさえいっていい。その理由は夢のようなロケーションです。深い緑に隠された高台の頂。店の前面の芝生の庭からは、遥か東シナ海の、壮大な純色の青のパノラマが広がります。誰もが立ち去りがたくなる光景。それは懐かしい夏の日の記憶の映像のようで、人々は必ず、もう一度芝生を横切り、澄んだ青のきらめきを瞳に焼き付けようとするのです。


  電信柱などの古材を使って建てたという赤瓦の民家の縁側、斜面を吹き上ってくる海風の中で食べるピザが、また格別においしい。ここではメニューはピザのほかには、サラダとドリンクというシンプルな構成(ドリンクの中では「アセロラ生ジュース」が絶品です。旬のアセロラを使うので、10月までしか味わうチャンスがありません)。オーナーの久場雪美さんがフランス人のシェフから教わったという、天然水で練り上げた生地を使ったピザは、この味だけでも行列を作る十分な理由になります。


 

  ほかにも、まだまだ素敵なカフェが、この森の中には息づいています。キジムナーが本当にいてもおかしくはないような、深い原始の森の中に。そう、日本にここだけの特別な場所――森の中のカフェ王国。心地良い風が吹き抜けるその場所を目指し、人々は今日も、森を縫う細い道を進んでいくのです。


 

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