TOP > Travel > 旅行 コンシェルジュ 星野 智之 > 『羊をめぐる冒険』の舞台?、仁宇(にう)布(ぷ)へ
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  眼の前は草原。背後は白樺林。周囲には一軒の人家もありません。4室だけの宿ですが、客室にはいずれも畳敷きのスペースもあって、のんびりと過ごせます。そしてラウンジで食べる夕食が、また楽しい。オーナーの柳生佳樹さんは羊の牧場も経営していて、羊乳を使ったチーズやヨーグルト、アイスクリームなどを次々と考案、この地ではちょっとした有名人です。そんな柳生さんの宿だけに、ここではジンギスカンが食べ放題! しかもウマイです。やっぱりジンギスカンは、北海道で食べるのがいちばんですな。



  羊の牧場まであるなんて、やっぱりここが『羊をめぐる冒険』の舞台で間違いないですね、と水を向けると、「いや、以前は牛を飼っていたんですよ。羊に替えたのは、あの小説が出版された後なんですけどねー」と、柳生さんは少しだけ苦笑い。


  仁宇布では今、廃線となってしまったJR美幸線の線路を利用して、“トロッコ列車”の運行が行われています。これも本当にお薦め。楽しいですよ。仁宇布駅がスタート地点で、かつて保線用に使われていた300㏄のガソリンエンジンがついたトロッコを利用した車両を、訪れた人が自ら運転して線路を走る(要普通免許)。鉄橋を越え、草原を過ぎ、白樺林を抜ける、往復10㎞の行程。運転は簡単です。北の風景が後方へとずんずん流れ去っていく爽快感は、体験したらやみつきになりそうです。



  トロッコを降り、その先にあるはずの線路跡を探してみると、小さな川に架かったかつての鉄道橋を見つけました。線路が外されたその橋の真ん中には、ハルニレでしょうか、一本の樹が静かに葉を茂らせています。そのとき、ほとんど何の根拠もなく、「やっぱりここが、“その場所”なんだろうな」と僕は思ったのです。少なくとも仁宇布は、透明で哀切な物語の舞台に、ふさわしい場所なのです。




ファームイン トント ℡01656-2-3939
トロッコ王国美深 ℡01656-2-1065


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