より身近なところでは、食に関する問題として「フードマイル(日本では『相手国別の食材輸入量』に『輸送距離』を乗じた数字をフードマイレージと呼んでいる)」の考え方が、かなり多くの国民に知られてきている。これは元々、英国の消費者運動家のティム・ラング氏が1994年に提唱した運動に由来している。具体的には食料の生産地から消費地までの距離に着目し、なるべく近くでとれた食料を食べることで、輸送に伴うエネルギーをできるだけ減らし、環境への負荷を軽減しようという運動である(日本でいう地産地消の考え方に等しい)。
英国といえば「食に対する意識が低い(貧しい)」といったイメージがいまだにつきまとっているが、実際はむしろその逆である。「セレブリティシェフ」と呼ばれる有名シェフたちの活躍、増え続けるテレビの料理番組等、ここ数年の英国はブームともいえるほど、食に関する一般の人々の関心は高まっている。それに伴い、人々は自分が口にする食材に対しても、それがどこからやってきたものなのか、を環境問題の視点も含め考えることが多くなってきているといえる。
その具体例のひとつとして、近年、ロンドンなどの大都市でもファーマーズマーケットが各地で開催されていることが挙げられる。ロンドンのマーケットでは、出店者をロンドンから100マイル(160km)以内に位置している農家に限定し、販売できるのは自分たちで生産したもののみ、という厳しい制限を設けている。つまり消費者はフードマイルの低い、そして生産者の顔が見える商品を買うことができるというわけである。
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また特に最近話題になった環境問題に対する事象のひとつに、大手スーパーマーケット「マークス&スペンサー」が、レジ袋を今年5月から有料化すると発表したことが挙げられる。1袋につき5ペンスを消費者から徴収し、それを環境チャリティ団体に寄付するというものだ。
英国内でも、ここ数年はレジ袋についての議論がなされ、特に大手スーパーなどでは、何度も使用が可能な厚手の袋を無料で配布する、といったキャンペーンなども行われている。また、一般市民へのエコバッグの普及・使用も目立ってきてはいたが、このように大手スーパーが新たな取り組みを始めたことで、消費者の意識にもより変化が現れるのではと期待されている。
これ以外に注目を集めているのが、冒頭でも触れた「ミネラルウォーターをやめて、極力、水道水を飲むようにしよう」という考え方。環境大臣フィル・ウーラス氏のオフィスでは、ボトル入りミネラルウォーターを禁止し、会議中には水道水を飲むことにしたというニュースが伝えられた。
またロンドン市では、「LONDON on Tap」という運動が始められた。これはロンドンのカフェやレストランなどの飲食店において、水道水を常設するようにしよう、というものである。レストランやカフェに入れば、黙っていてもグラス入りのお水が出て来る日本では想像しにくいかもしれないが、ほとんどのヨーロッパの国では、レストランで客が席についた途端、グラス入りの水が出て来るということはまずない。水が欲しい場合にはわざわざ注文しなくてはならないことがほとんどである。
英国の場合、ミネラルウォーターではなく、普通の水道水(Tap water)をもらうこともできるが、なんとなく「水道水をください」とは言いづらい(格好が悪い)と考える人も多く、ついミネラルウオーター(有料)を注文する、といった人々が多いのが現状である。
ロンドン市に水を供給しているテムズ・ウォーターの報告によると、水道水と比べて、ミネラルウォーター1本を生産するには、加工処理するまでに約300倍もの二酸化炭素が発生し、価格も約500倍するという。つまり、環境問題に配慮するのならば、圧倒的に水道水の方が良い選択肢であり、「ミネラルウォーターではなく水道水を飲む」という考え方を浸透させていこうというのが、ロンドン市の取り組みなのである。
今回紹介した英国内での環境問題への取り組みの例は一部にすぎないが、このようにして見ると、英国のエコロジーへの意識の高まりや取り組みは、政府や行政の強いイニシアティブが特徴といえる。
個人主義が徹底している国で、特にロンドンのような、国籍も、文化も教育も環境もまったく違ったバックグラウンドを持った人々が集まるマルチカルチャラルな都市においては、こうした行政の先導が必要とされるのであろう。
そうしたリーダーシップのもと、英国国民は、Ethical / エシカル(倫理に叶う)な市民、消費者としての意識を高め、自分で選んだエコロジー生活を実践しているように感じられる。
Text&Photo : Mami McGuinness
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