世界でも比類無い色彩でパティーヌ(色付け)され、鏡の様に磨き上げられた『ヴェネチア・レザー』に包まれたベルルッティの靴。見る者を強烈に魅了し、同時にこの靴を履く人にこの上ない喜びの履き心地を約束する。
この至上の履き心地は、やはり作る職人の腕によるもの。
たった10人ではあるが、フランスでも選りすぐりの職人10人のチームによって作られる、ベルルッティの靴。1足のビスポークの靴を作り上げるのに、最低でも1年という時間がかかる。履く人のことを<靴>そのものが知り尽くし、履いていることを忘れるほどに『脇役』の役目を<靴>が心得ている。そんな靴を作るためには、それだけの時間が必要だ。
幼い頃に祖父の趣味の靴作りを見て、靴へのひらめきとときめきを感じたというロック氏。コンパニオン・ドゥ・ドゥボワール(※)出身で、数々の経験を積み重ねた後に2003年よりベルルッティのスゥ・ムジュール制作責任者に就任、世界各地でベルルッティのゲスト(お客様のことを、同社ではこう呼ぶ)のオーダーを受けてきた。
ビスポークシューズの製作に当たっては、ロック氏はポイントの8カ所を中心にし、ゲストの足の骨のラインからあらゆるところを触って、まるで『足の等高線が描ける』ほどに色んな箇所を採寸する。そのデータを元に仮縫いの靴を作るのだ。そしてその仮縫いした靴を実際に履いてもらい、つま先、土踏まず、かかとの部分の革を惜しみなく切って足がどう収まっているのかを見る。魚の目、タコの場所から学生時代に骨折した箇所、爪や痛みを感じる所まで、直接靴に記入し、いよいよ本縫いに入る。
「色んな足の方がいらっしゃいます。それを美しく、しかもその方が靴に関して困っている問題が何か、なぜ既成靴ではなくビスポークを選んだのか。採寸と仮縫いとの間に、お互いに良く話し合って、理解した所でそれを形にしていくのです。」
ロック氏は、マダム・オルガ・ベルルッティが創り上げた世界に、他には無い美しさと革新的なデザインを感じている。それは過去の男性靴のビスポークのデザインを変えたという。そして彼は、彼女がデザインした、店頭にディスプレイしてある靴を一足取り上げてこう述べた。
「たとえば、この靴と同じものをゲストが注文したとします。でも、僕は同じものを作る気は全くありません。ただ、その方のために、その靴と同じデザインの全く違う1つの作品を作ろうと思うのです。一番大切なのは話合いで、その方が欲しい靴を作る、一番大切にしているのは、そこです。」
そして、ロック氏の言う「履く人のために靴を作るというチャレンジは、毎回ルネッサンスだ」という言葉に、履く人への真剣で熱いに思いがこもる。その思いを映し出すからこそ、ベルルッティの靴は<履くこと>で初めて真の美しさを発揮し完成するのだ。まさに、人生をも彩る靴といえるのではないだろうか。
(※)ベーシックな靴づくりを学んだ後、フランスの地方各地を丁稚として回る、という試練を乗り越えて一流の職人としての技術を身につけるプログラム。これを終えると、靴作りのエリートとして認められる。
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