読者の中にはすでに「お誂え」を経験済みの方も少なくはないだろう。実際のところオーダーメイドでスーツを作る人は徐々に増えてきている。そしてその要望や求めるものは確実に進化してきているという。
「オーダーメイドをされる方の中には流行の最先端のものを作りたい、とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。以前はジョルジオ・アルマーニの影響もあり、イタリアンスタイルが流行していましたが、最近は肩幅が狭く、上着丈、袖丈が短く、ウェストラインも細いシルエットのブリティッシュスタイルを好む方が多くなっています。30代~40代の方はタイトなシルエットのもの、50代~60代の方は少し流行を意識した体に合ったシルエットのものをオーダーされます。5年~10年前に着けられたものとはかなりシルエットが変わりました。特に肩幅のシルエットがかなり変わりましたね」
「自分だけの」というオーダーのイメージからは意外にも感じる流行との密接な関係。毎年の流行を取り入れたスタイルを楽しむのであれば、むしろ既製品のほうが良いのではないかと思ってしまうが。それでも多くの人があえてオーダーする理由はと問うと、迷うことなく明快な答えが返ってきた。
「やはり肩の軽さと着やすさに尽きます。」
ジャケットやコートなどのアウターであればさほど大きな問題ではないが、スーツの場合は上下で対になっているため、自分の体型にあっているかということが重要になる。流行のタイトなシルエットを着こなそうと思えば、ますます服と体のラインとの葛藤が起きてくる。それを解消し、快適にするのがオーダーメイドのなせる技だという。
「既製のものはやはりほとんどのものが体に合っていません。脇ツメと股下と袖丈が直せるくらいですから、肩幅などは自分の体型に合うようには直せません。流行を取り入れつつも完全に合わせるのではなく、着やすさもポイントにしたバランスがとても重要になっています。以前のオーダースーツというと、完全に体にフィットしてしまい、逆に野暮ったくなってしまうことが多かったのですが、最近は流行のラインを意識して残しつつ、体のラインをあまり出し過ぎないように作られます」
オーダー方法によってもシルエットと着やすさのバランスを選ぶことができる。フルオーダーであれば、手縫いのやわらかな仕上がりと極上の着やすさを体感できるだろう。一方でイージーオーダーやパターンオーダーは、豊富なヴァリエーションからパターンやボタン、ステッチの種類を選ぶことで、デザイン性の高い自分だけの一着に仕上げることができる。神谷が代表を務めるテーラー神谷ではフルオーダーは40~60代の顧客が中心だったが、最近では30代も増え、イージーオーダー(同社ではニューオーダーとも呼ぶ)では20代からもニーズが増えているという。
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