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Cartier(カルティエ) 石上純也ーFREEING ARCHITECTURE POWER STATION OF ART, SHANGHAI 2019年7月18日~10月7日

Portrait of Junya Ishigami, Fondation Cartier pou l'art contemporain, Paris. Photo ©Renaud Montfourny

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Cartier(カルティエ)

石上純也ーFREEING ARCHITECTURE
POWER STATION OF ART, SHANGHAI  2019年7月18日~10月7日

 2018年、カルティエ現代美術財団は、日本の若き建築家石上純也の初となる大規模な個展を開催しました。この個展は大成功を収め、フランス国内外の専門家や一般来場者から好評を博しました。英国紙「ガーディアン」には2018年最大の建築関連イベントと評され、2019年ミラノデザインプライズの展覧会デザイン部門では金賞を受賞。以来、この展覧会全体が、カルティエ現代美術財団のコレクションの一部となっています。世界巡回展の第一弾は2019年7月18日から10月7日まで、上海にて上海当代芸術博物館(PSA)の全面協力を得て開催されます。


 カルティエ現代美術財団が上海のPSAで開催する「石上純也―Freeing Architecture(自由な建築)」は、石上が中国で開催する初の展覧会となります。中国では、現在石上による複数の大規模プロジェクトが進行中です。展覧会では、石上がアジアやヨーロッパで手掛けた建築作品20点の大型模型に加え、それらの作品の構想・建設過程の各段階を記録した映像やスケッチが展示されます。2018年の展覧会のセノグラフィーは、パリにあるカルティエ現代美術財団の開放感に溢れたガラスの建物に合わせてデザインされたものでしたが、今回はPSAの巨大な空間に合わせ、石上純也の手によって完全に作り替えられています。この新しいイベントにより、芸術と建築の分野で大きな存在感を持つ中国の重要な公的施設と、カルティエ現代美術財団との間に新たなコラボレーションが実現しました。過去には、2018年に開催された「A Beautiful Elsewhere(どこか別の場所の美)において、中国内外から訪れた来場客にカルティエ コレクションの豊かさと多様性を紹介したことが記憶に新しいところです。



Detail of the exhibition Junya Ishigami, Freeing Architecture, presented in 2018 at the Fondation Cartier pour l'art contemporain, Paris. Photo ©Thibaut Voisin

石上純也

 石上は、自然(風景や雲や森など)の中における自身の建築プロジェクトの位置づけをたやすく見きわめ、外部環境と屋内空間の境界を取り除きます。もともとそこにあった自然の中に作品を据えながら、幻想の世界を作品の重要なエレメントとして際立たせることで、彼はその感性を高潔さという高みまで押し上げているのです。


 1974年神奈川県で生まれた石上は、日本の若手建築家の一人であり、ニューヨーク近代美術館で大規模な展覧会が行われたばかりの伊東豊雄や妹島和世に続いて、2000年代に頭角を現した世代です。東京藝術大学で学び、 SANAAで建築家としての経験を積んだ後、 2004年に石上純也建築設計事務所を設立。建築のルールや制約から自由に見える彼の作品は、すぐにその非凡さを認められ、数々の賞を受賞しました。


 2010年にはヴェネツィア建築ビエンナーレ金獅子賞を受賞、2019年にはサーペンタイン・ギャラリーからサマーパビリオンの設計を依頼されました。2008年に竣工した神奈川工科大学KAIT工房は、石上の野心的なプロジェクトのひとつとして知られています。明るさと開放感のある空間、そして内部と外部の連続性という点で突出した建築です。また、2011年より手掛けているモスクワ科学技術博物館のリノベーションでは、19世紀の博物館を公園のように作り替え、2014年にはコペンハーゲンの「House of Peace(平和の家)」で、平和の象徴である雲を模した巨大な建造物を海上に浮かべるという斬新なアイディアを発表。2016年からは、中国山東省でのプロジェクトで、岩肌の裂け目からそびえ立つかのような高さ45メートルの教会を建設中です。



Detail of the exhibition Junya Ishigami, Freeing Architecture, presented in 2018 at the Fondation Cartier pour l'art contemporain, Paris. Photo ©Thibaut Voisin

建築模型

 Freeing Architectureで石上は、建築における機能、フォルム、規模、環境を表現し、そこからこの分野の将来的ビジョンを示しています。展示では、30点を超える模型と膨大な映像やドローイングを通し、20作品のプロジェクトの発端から実現に至るまでの複雑なプロセスを紹介します。展示用に組み立てられた模型は、 2018年のカルティエ現代美術財団の展覧会のために特別に製作されたものです。スタジオで1年間にわたって手作業で組み立てられた作品群をじっと見ていると、最終形に至るまでの多くの段階と苦労の跡が見て取れます。素材、サイズ、精緻さの度合いはすべて異なりますが、どの作品からも、石上の建築作品の創造に必要な、緩やかな成熟過程を垣間見ることができます。作品には、理論・知識・技術を駆使した実験から得られた詩歌が吹き込まれています。



自然現象としての建築

 自由への真のオード(詩歌)といえる展示Freeing Architectureでは、ノウハウや建築思想の枠を超えて自らの活動を考える、石上の並外れた能力が発揮されています。見る者を作り手のイマジネーションへ誘いこみ、幾多の詩的で繊細な世界を見せるのです。例えば、空に引かれた1本の線がモニュメントとなり(Sydney Cloud Archーシドニーの雲のアーチ、シドニー、オーストラリア)、子どもたちのイラストや動画のコラージュは、幼稚園の屋根の模様に仕立てられています(Forest Kindergardenー森の幼稚園、山東省、中国)。石上は建築について、沈降や浸食によって時間をかけて成型される石のように、自然に形が出来上がっていくものだと語っています。日本の山口で進むあるプロジェクトでは、シェフのいるレストラン兼住まいが、「洞窟」をモチーフにデザインされています(House and Restaurantー家と食堂、山口県)。大学生のための多目的広場は、空のような天井と大地のような床にはさまれた柱のないどこまでも続く大空間で、地平線をのぞむ風景を連想させます(University Multipurpose Hallー大学の多目的ホール、神奈川県)。



新しい景色

 石上は、どの建築プロジェクトにおいても、周辺環境は欠かせない要素だと考えており、その風景を強調し、ときには変換して、作品の中に取り込みます。その一例として、湖上に計画された全長1kmの建物(日照市、中国)や、300本以上の木を隣接した敷地に移植した森林プロジェクト(栃木県)があります。


Detail of the exhibition Junya Ishigami, Freeing Architecture, presented in 2018 at the Fondation Cartier pour l'art contemporain, Paris. Photo ©Thibaut Voisin

 建築プロジェクトとしてデザインされた本展覧会では、綿密に計画されたセノグラフィーによって、ひとつひとつの空間が異なる風景を持っています。来場者は、高さ6メートルの壁からなる印象的な迷路を歩き回る間、次々と新しい視点に出会うことになります。最初の部屋には、オランダのファイヴェルシュベルク公園にデザインした透明な建物の模型があるかと思えば、曲線からなる背の高い礼拝堂(中国日照市、谷間の教会)を10分の1スケールで再現した巨大な模型も展示されています。これらの空間は、「庭の宇宙」、「子どもの世界」、そして「雲のプロジェクト」といったテーマを持ち、物語の章立てのように、互いに緩やかに関連しています。 石上の手で変容したPSAの空間では、隣接して連続的に配置された大小さまざまな模型が、多くのコラージュとスケッチとともに、厳粛さ、夢の世界、遊び心、静けさといった性質を併せ持つ雰囲気を醸し出しています。



変幻自在な作品の見方

 子どもの庭、教会、美術館、手入れの行き届いた庭、一軒家レストラン、ガーデンハウス、モニュメント、都会的な彫刻ー展示Freeing Architectureで紹介される多彩な建築の数々は、絶え間なく再構築されるフレキシブルな作品群の、豊かさと複雑さを伝える役割を果たしています。単一のスタイルの可能性そのものを拒絶することでこそ、石上純也は逆に、それぞれの環境、機能、住民、来場者によって決まってくる個々の美的コンテキストに刻まれた、各建築の銘を守ろうとしているのです。彼はどのプロジェクトにも先入観を持たずに取り組み、美的観点と技術的観点の両面から、作業全体にすぐさま問いを投げかけます。


 作品に現れた合理性によって、建築物の計り知れない複雑さは、意図的に隠されています。石上は、建築物を建てるまさにその現場の土を、コンクリート構造物の土型に使います(House and Restaurantー家と食堂、山口県)。また、ホテルの開発によって伐採されることになった森全体を移植することで、木と池が点在する夢幻の風景を構成します(Art Biotopーアートビオトープ那須、栃木県)。そして、地下階をむき出しにして既存の地階を地上階にかえることで、歴史的博物館を拡張することを考えます(Moscow Polytechnic Museumーモスクワ化学技術博物館、ロシア)。詩歌と素朴さが吹き込まれた石上純也の作品。その裏側にあるのは、技術へのあくなき挑戦心と、建築という枠組みにおける人間の居場所への探求心です。

Fondation Cartier pour l’art contemporain, Paris. Photo ©Luc Boegly.

PSA, Shanghai. Photo ©Luc Boegly.




カルティエ現代美術財団ー現代の創作のための空間

 1984年にフランスで設立されたカルティエ現代美術財団は、独創的な企業社会奉仕活動の一例です。1994年にフランス人建築家ジャン・ヌーベルが設計したパリ市内の建物に移転してから、長く人々の記憶に残る現代美術展のプログラムを企画し、美術館ではめったに扱われることのないトピックにもその門戸を開放しています。学際的であることにこだわり、来場者をまだ見ぬ地平へ誘うとともに、世界中のアーティスト、科学者、哲学者、音楽家、そして建築家の間に新鮮で予想のつかない出会いを生んでいます。この国際的な視野はプログラムの内容だけにとどまらず、東京、ブエノスアイレス、ソウル、そして上海でも多くの巡回展を開催してきました。こうした巡回展は、時間をかけて世界の名だたる文化機関と築いてきた特別な関係により実現したものです。



上海当代芸術博物館 the Power Station of Art(PSA)

 2012年10月1日に開館した上海当代芸術博物館(the Power Station of Art)は、中国本土初の現代美術に特化した国立博物館で、上海ビエンナーレの開催地にもなっています。旧南市発電所を改修した は、2010年の上海万博で未来パビリオンとしても使用されました。博物館は、産業時代からIT時代へ移行する上海の大転換を見てきただけでなく、シンプルながら率直な建築スタイルによって、様々なアーティストにとって豊かなインスピレーションの源となっています。上海の新しい都会文化を生み出す では、絶え間ないイノベーションと進歩が、長い間活力を保つ秘訣だと考えられています。 は、現代美術を学び鑑賞する開かれた場を市民に提供することに注力し、生活と芸術との間の障壁を取り除き、芸術と文化に関わる様々な教育機関の間で協力関係の構築と知識の創出を図っています。



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カルティエ カスタマー サービスセンター
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