TOP > Special > 8月特集「和を身にまとう喜び」
  山口氏が伝えたかった問題意識、それは現代の日本人が抱え持つ弱さだ。

「日本人は今、いい人になることに服従している。本当は服従する相手なんかいないのに、リスクが怖い、世間体が気になる、平穏無事に生きたいと絶えずビクビクし、自分を閉じこめて人と接している」

  このままではいけない、日本がダメになってしまう、そんな危機感が山口氏を着物づくりに駆り立てた。

「今こそ、傾奇者が出て来なあかん。世界で堂々と渡り合える、誇り高い日本人が。たった400年前には世界で最も屈強と言われた漢たちのDNAの復活を願った」
  本格的に着物づくりに取り組み始めた山口氏には、今、ライフワークとも言える一つの軸がある。それは、傾奇者たちが生きていた桃山時代の、着物に描かれた紋様の意味を解き明かすことだ。

  天下泰平の世である江戸時代の直前、桃山時代は天下の分け目が動く動乱の時代であった。いつ命を落とすかわからない、死が間近であった時代。そのような時代には、世界中どこでも紋様の意味を服用するという現象が見られるという。紋様を服用するとは、例えば、漢方に使われるような体にいい植物を着物や帯の紋様として着る、刺青として体に描くなど、効用を体の外からも取り入れようとする行為が上げられる。このように紋様は単なる装飾やお洒落ではなく、それぞれに意味や願いが込められていた。紋様に込められた意味を探ること、それはその時代に生きた人々の精神を解き明かすことに他ならない。傾奇者の好んで着た着物にも、やはり彼らの意思や思想が込められている。その紋様に込められた精神を解き明かし、傾奇者の魂を込めた着物をつくる。これが山口氏の着物づくりの根源だ。

  紋様には全て意味がある。例えばこの取材の当日、山口氏は縞の着物を着ていた。この縞の模様の意味は“まつろわぬ(従わない)”。縞はどこまでいっても平行で交わらない。これは主と自分はずっと同じ方向を向いて突き進み、幕府に対しては傾奇者の宣言を表しているという。江戸時代には着用を禁止されていた、縞の着物を着る山口氏も“まつろわぬ” 精神を表明しているのだという。

  「僕は一生傾奇者」

  山口氏のデザインする誉田屋源兵衛の着物は、ユナイテッドアローズであつらえることができる。あつらえは糸を選び、最上の反物を織り上げるところから始まり、染め、仕立て、全ての工程に着る当人のこだわりが込められる。それは着物に託した自分の意思を表明していることに他ならない。

  あなたは着物に、何を託して着るだろうか。

誉田屋源兵衛
創業270年の歴史をもつ京都の帯屋。現10代目当主である山口源兵衛氏が創業以来初となる着物制作に取り組む。「あつらえ」の着物は糸からつくるという究極のこだわりが込められた逸品である。

「あつらえ」着物
価格:¥1,000,000~
取扱店舗:
ユナイテッドアローズ原宿本店メンズ館
Tel 03-3479-8180
ユナイテッドアローズ心斎橋 御堂筋店
Tel 06-6484-2032