TOP > Fashion > ファッション コンシェルジュ 小暮昌弘 > イタリア式パンツ修理法~裾は折りません!


  昔から職業柄、どんな町に行っても、洋服屋さんを探していました。特に海外では、まだ日本に輸入されていないブランドや新しいショップなどを回って、服や小物を買いました。ほとんどが時間があまりない中での買い物でしたので、買った服はそのまま日本に持ち帰りましたが、10数年前、イタリアのとあるブランドで買い物にしたときでした。


  今ではラグジュアリーブランドとしてよく知られるブランドですが、その店で、当時はまだ目新しかったストレッチ素材のパンツを買おうと思い、試着室に。パンツ、下着のことではありません、日本流にいえば、ズボン、あるいはスラックスです。私は身長が低く、足も短い(笑)ので、当然、裾を修理しなければはけません。見ると、そのパンツ、すでに裾がダブルで仕上た状態で売られているのです。普通ならば日本に持ち帰り、馴染みの修理店に持ち込むのですが、まだ数日ミラノに滞在する予定でしたので、「あなたのお店で、直せますか?」とスタッフに尋ねると、奥からから白衣を着た専門の職人さんが出てきました。モード的なブランドなのに、このような職人風の女性がいることにもビックリしたのですが、採寸の仕方にさらに驚きました。私の太ももの部分で生地をつまんで、ピン打ちをしてくれるのです。「靴を履いてください」との指示で靴を合わせると、自分の好みに合わせて、ピンを移動して長さを調整してくれます。かくして鏡に映った私のパンツ姿はすでにパンツの裾がダブルに上がっているので、仕上り状態がほぼわかる状態。さらにその婦人曰く、裾幅はオリジナルのパンツと同じ状態で修理するというのです。もちろん太ももでつまんだところだけを直すわけではありませんので、脇をすべて開けてシルエットすべてを修理するらしいのです。数日後ホテルに届けられたパンツは、最初に売られていたパンツ同様の裾幅に。かなり裾幅が狭かったので手間も相当かかったに違いありません。

  日本でも裾幅を直してもらったことはありますが、最初からこのようなことをやってくれる店は初めて。その後、「フランチェスコ・アルバーノ」というミラノの高級住宅街にあるセレクトショップで同じ光景を見ました。オーナーに聞きましたら、ミラノではごく普通のことだというのです。日本では高級リペアショップなどで、このような方法をシルエットを見せながら修理してくれる、という噂は聞いたことがあありますが、普通のメンズショップや百貨店などでは見たことがありません。ほとんどが裾を外側に折って、直しますし、こちらが言わなければ、裾幅やシルエットを直しませんか、と店側から言われることはありません。

  昨年、同じくミラノのいわゆるクラシコイタリアの有名店のウインドウでジーンズを見かけました。素材がストレッチ素材入りで、腰裏(ウエストの裏地部分)にもきれいな赤のパイピング処理がしてあり、はきやすそうだったので、試着してみました。テーラー風のブランドが作るジーンズに興味があったからです。残念ながら、シルエットは気に入りましたが、ウエストが余ってしまうのです。しかしサイズを上げてしまうと、シルエットがゆったりし過ぎるかも、と私が言うと、スタッフの人曰く、すべての部分をつまんであなたのサイズに合わせるというのです。しかも翌日までに。ユーロ高にもかかわらず財布の紐がゆるみそうになりそうな接客でしたが、翌日はミラノを離れるスケジュール。泣く泣くあきらめましたが、まさにイタリア恐るべし!という感じです。

  サービスといってしまえばそれまでですが、服に対する文化を基盤が違うと感じました。ある程度の店ならば、パンツはジーンズに限らず、既製品のスーツなども徹底して直してくれるという話もあります。オーダーメイドに頼らなくても、既製品で十分満足いくフィッティングが楽しめる。これがイタリアの凄さです。あなたも機会はありましたら、ぜひチャレンジしてみてください。